無借金経営のメリットやデメリット、リスクを徹底解説!
目次
無借金経営とは?
「無借金経営」とは、外部からお金を借りていない状態で経営している会社のことを指します。ただし厳密に言うと、全ての会社は第三者からお金を集めて成り立っています。
このお金の集め方は2つあります。「出資」と「借金」です。出資とは、会社を立ち上げるときにお金を出して株主になってもらうことです。借金とは、将来お金を返す約束でお金を借りることです。
この違いはバランスシートの貸方でも区分けされます。借金(負債)はバランスシートの右上に位置するのに対し、出資(純資産)は右下になります。
無借金経営の会社は、バランスシートの貸方の欄に借入がなく、借金(負債)がゼロの状態です。一見、財務的に非常に健全で全く問題ないように思えますが、無借金経営であることにはメリットもデメリットも両方あります。
無借金経営のメリット
利息がない
利息とは、お金を借りたときに元本と共に返済する必要のあるお金のことであり、「年●%」と表記されます。この利息は完済するまで継続的にかかってくるため、企業のコストに分類されます。
特に借入年数が増えると支払うべき利息の合計金額が増え、ある程度の金額が必要になることがあります。無借金経営では、このようなコストがかからないというメリットがあります。
返済に追われない
借金をすると「いつまでにどのような方法によって返済する」と契約書で決められ、返済に追われることになります。無借金経営であれば、「返済予定日から逆算してキャッシュフローを考えなくてはならない」ということがなく、比較的自由に経営することができます。
精神的に追い詰められない
事業をやっていると、売上の上下や思わぬアクシデントなど、どうしてもつらい局面あります。しかしそのようなときでも、返済日は待ってくれません。
ただでさえ事業がうまくいっていないときに金融機関から返済催促の連絡がくるので、精神的に追い詰められてしまいます。無借金経営ではこのような連絡がないので、仮にアクシデントがあったとしても心にゆとりをもつことができます。
個人からの信頼が得られる
「借金」と聞くと、一般の方からはどうしても悪いイメージを持たれる場合が多いです。金融機関などの法人は「借金が必ずしも悪いことではない」という認識を持っていることが多いですが、一般のサラリーマンなどの個人からは悪い評価をされるかもしれません。
逆に無借金経営をしていると、「身の丈にあった状態で事業をしている」「過去の営業努力があったので貯金が潤沢にある」と好印象のイメージを持たれ、信頼が得られる場合があります。
無借金経営のデメリットやリスク
ビジネスチャンスを掴めない
無借金経営は堅実なイメージですが、言い換えると冒険をしない、ドラマのない経営をしていると捉えることもできます。
企業は投資をすることで成長していきます。最初に株主から出資してもらったお金を資本金として、材料の仕入れや固定資産に投資をして、営業して事業を拡大し、人件費や必要経費を払い、利益を出していきます。そしてこの利益からまた利益を上げるための投資をします。
無借金経営とは、この利益の中だけで営業する経営です。そのため、大きな仕事が舞い込んできても、ビジネスチャンスを掴みきれない傾向があります。
例えば、もっと多くの商品を生産したり、より大型の製品を作ることで商品が爆発的に伸びるという場面に直面しても、無借金では大きな工場を建設する費用が足りないため、そのチャンスをモノできないということも考えられます。
ROEが低くレバレッジが効かない
「レバレッジ」というのは、借金(負債)をすることで、借金しない自己資本のみの場合よりも高い利益率を実現することを指します。上手なタイミングで借金をすることで、借金をしない場合よりも会社の利益率に好影響を及ぼせるケースがあります。
レベレッジを考えるときに重要となるポイントは、「ROE」のE(自己資本)と「ROA」のA(総資本)です。ROEとは「株主資本利益率」といい、次の算式で求められます。
ROE(株主資本利益率)= ROA(総資本営業利益率)+(ROA-負債利子率)× 負債/自己資本
この式は、A(総資本)が同じ会社が同額の利益をあげたとき、借金のある方がROEは大きくなり、レバレッジがかかることを示しています。借金のある会社の方が、負債が大きく自己資本が少ないので、ROEが大きくなります。
逆に無借金経営では、ROEが低くてレバレッジをうまく利用することができず、経営が軌道に乗り切らないということも多いでしょう。
WACCを上回るのが難しくなる
企業を立ち上げる際には、株主から出資してもらう代わりに配当を支払います。一方で金融機関に借金をするときには利息を支払う必要があります。これらの配当や利息というコストを加重平均したものを「WACC(加重平均基本コスト)」と呼び、資金を調達するのにかかるコストを表しています。
そして企業のキャッシュフローが、WACCの数字を上回った数字で経営できている状態になると、その企業は株主や債権者にとって魅力的な投資先であると言うことができます。
ただし無借金経営では、借金をしないことからWACCが低下せず、WACCを上回るキャッシュフローを実現することが難しくなります。そうなると企業としての価値は、客観的に見てあまり高く評価されなくなってしまいます。
ここで補足です。ほとんどの会社は、この「WACC」という概念とは無縁だと思います。理由は、中小企業では株主に配当を支払うことはレアケースだからです。
もし、この記事を読んでいただいているあなたの会社が株主に配当を支払う場合は上記の文章を参考にしてみてください。
倒産のリスクが高まる
「黒字倒産」という言葉を聞いたことがある方も多いことでしょう。帳面上では儲かっていても、得意先の売上が遅れるなどの理由で、支払いや高騰した人件費を支払えずに倒産するケースです。
どんな業界であれ、事業は山あり谷ありです。回復の見込みがあっても、足元の支払いができない場合があります。そしてこのような状況を改善するのが「運転資金」という借金です。
借金をしてでも運転資金を確保しておくことで、ある程度想定外の出来事にも対応できる柔軟性や流動性を持っておかないと、思わぬアクシデントであっという間に倒産してしまう可能性があります。
金融機関からの信用が得られない
金融機関にとって重要なのは「実績」による「信用」です。特に融資の取引実績が増えれば増えるほど、お互いの信頼関係ができあがってきます。
反対に、全くの一見先や無借金経営の会社は、金融機関から警戒される傾向にあります。普段からリスクをとってさまざまな事業に挑戦している企業と取引している金融機関からすると、無借金経営の会社は特異にさえ思われます。
特に中小企業では、決算書が主に税務申告目的で作成されており、外部の監査法人などの目を通っていないことが多いので、金融機関も100%信用していない面があります。
金融機関は融資をするとき、決算書以外に事業内容や預金通帳の動きなども詳細に審査します。つまり、すでに金融機関から融資を受けているというのは、事業の将来性をある程度信用してもらっているという証となります。
必要なときに必要な金額の融資を受けられる状態にしておくためには、少額でも「融資を受けて返済する」を繰り返すことで、金融機関との「実績」を作り「信用」を得ておくことが大切になります。
ガバナンスや規律が弱い
無借金経営では、監視の目がない分経営がおろそかになりやすいという側面もあります。「金を出せば口も出す」という言葉にもあるように、借金をすると金融機関から経営がうまくいっているどうか、第三者の目で見てもらえるというメリットがあります。
しかし無借金経営の場合は、株主の目はあっても金融機関の目はありません。また無借金経営の場合、株主が経営者の親族である場合も多く、経営に関する実質的なアドバイスがもらえないというデメリットもあります。
極端なケースでは、社長のワンマン経営によって従業員も株主も全く関係ない「放漫経営」に陥る恐れもあります。金融機関から借金をすることは、しっかりと規律を守って適切に事業を推進していくための、1つの覚悟と捉えることもできるでしょう。